
お悩み① 「好き」を仕事にしたいけど・・・・・・
「大学3年生となり、進路について真剣に向き合っています。『好き』を仕事にしたい気持ちはありますが、勇気が出ません。仕事選びの基準についてお二人の見解を教えてほしいです」(20代・女性)
ヨシタケ 私もそうですし、原宿さんもそうでしょうけど、「原宿になりたくて、今、なっている」というわけではないですよね。
原宿 いろいろ流された末にたどり着いた感じです。
ヨシタケ 流れの淀みみたいなものにこう、くるくると……。
原宿 コントロールできるものなんて一つもなかった、みたいな感覚があります。
ヨシタケ 最近思うのは、人間って、自分に向いていないことを、5年も10年も続けられるほど、丈夫じゃないし器用でもないなって。僕はいろんなものから逃げ回ってきて、今があるんです。
原宿 いや、わかります!
ヨシタケ あまりにも向いてなければ、心が壊れる。そうやって、ちょっとでも自分のいい居場所を探していくと、最終的には、その人らしいものには行き着かざるを得ないかな、と思っていて。どうしてもやりたくないものがあれば、「それじゃなければ何でもいい!」って。それで良くないですかと思うんです。
原宿 それ、めっちゃ大事ですね。「やりたくないことが分かる」。
ヨシタケ 「これさえしなくて良いんだったら、大概のものは我慢できる」ってものがあれば、それに「夢」って名前を付けてしまえばいい。じつは選択肢って、そんなにないし、自分にできることってたくさんはない。僕も半年間だけ会社員をやっていましたけど、本当に団体行動が苦手だなって身に染みて思いました。でもその半年間のおかげで、たくさんのことを学びましたから。
原宿 「好きな仕事」ってよりも、「意外と続くな~」みたいな感覚の方が重要だと思っていて。やっていて「うわ、好き、これ最高! テンション上がる!」っていうよりも、平熱だけど、「なんか俺、これずっとやっていられるなあ」みたいな。
ヨシタケ うんうん。
原宿 「ずっとお皿洗っていられるな」「ずっとモノを書いていられるな」「なんかずっと続くわ」。僕、結構、そういう感じだったんですね。「平気で続けられる」って。自分では得意だと思っていなくても、他人から見たら「あの人、すごく続いているからそれが好きなんだ。得意なんだ。才能あるんだ」。自分では平熱で、ただ続けているだけ、みたいな。
ヨシタケ 「意外と苦じゃない」っていうキーワードだけで十分ですよね。
原宿 それ、才能だと思うんですね。めちゃくちゃすごい才能だと思います。それがちょっと見えるぐらいでも、「お仕事をする意味」ってデカいなって感じます。
ヨシタケ 「自分にしかできないことって、果たしてあるんだろうか?問題」っていうのがあって、特に若いうちは、「人と同じことやるのイヤ」「俺は俺にしかできないことを探すんだ、イエーイ♪」みたいな若気の至りがあって、それも誰しも通る。僕も昔はそう思っていましたけど、「自分にしかできないこと」って、皆さん当然あるんですよね。ただ、問題なのは、その「自分にしかできないこと」が、「他人に面白がってもらえるかどうか」。「カメムシの裏側だったら、何時間も見ていられるよ」と思っても、お仕事にはならない。
原宿 そうですね、「カメムシの裏側屋」さんは、ちょっとさすがに、収益にはならない(笑)。
ヨシタケ スポンサーがつけば別ですけど(笑)。それが商品として売り物になるかどうか。何かモノをつくるのが好きで、自分のつくったモノを面白いって言ってくれる人が3人ぐらいいれば、その人にとって創作って立派な趣味になりますし、それが3000人になると職業になれるかもしれない。その「数」でしかないんです。少なくとも自分が面白いと思っていないと、3人さえ喜んでくれない。「俺はホントにカメムシ好きなのか? やっぱ好きだわ!」っていうところから始まる。
原宿 空前の「カメムシブーム」みたいなものが、もしかしたら来るかもしれないですよね。
ヨシタケ その時に「やっと流れに追いついたな」って。
原宿 それは自分でやっぱり選べないですからね。
ヨシタケ だから僕自身、「自分では選べていない」って実感はすごくあるんですね。別の言い方をすると、「時代に味方してもらえた」。僕も絵本を描いて、たぶん20年前に同じこと描いても、ここまで読んでもらえていないんじゃないか、みたいな感覚がすごくあって。弱音を吐いたり、「できなさ」みたいなことを言ったりしても良いし、面白がっても良いという空気って、本当にここ10年、15年の話だと思うんですね。だから、めぐり合わせとか、運の良さでしかなかった。
原宿 その「続く」っていうことがあると、「運」も来るかもしれない。「運が来るまで続けていたら、なんか来た」みたいなこともあるかも。「好き嫌い」よりも「続く」って大事だと思います。
ヨシタケ 自分から何か動き出す人間ではないですけど、人生の要所要所で、背中を押してくれる人に出会えたんです。そこの運の良さだけは自慢できるんですね。背中を押してくれる人に出会えた時、「僕はこういうことを勝手にやっていまして」って、見せるモノがある。準備ができているかどうかだと思います。
原宿 僕はインターネットを最初に始めて、「ホームページって自分でつくれるんだ」っていう感覚がデカかったかもしれない。「俺次第で、こんなのできちゃうんだ」みたいな感じ。自分が書いたものを、インターネットでアップロードしたら、画面に映って、誰でも見られるという凄さ。そんなの、これまでは選ばれた人にしかできなかったのに、「俺もこんなんできちゃうんだ!」みたいな感覚で、結局それが面白くてずっと続けちゃった感じはあります。
ヨシタケ 僕の場合は本当に、他人に全然見せるもんじゃない、ちっちゃい絵を勝手に描いていて、その半年間の会社員の時代、事務の女性に「かわいい」って言ってもらえるまで他人に見せて良いものだと思っていなかった。他人に見せる勇気のない表現の中にも、当然、面白いモノがある。そういうものをすくい上げていこうとしたとき、ウェブは良し悪しだったりすると感じます。
原宿 それはめっちゃありますね。拡散してくれる一方で、せっかくの「小さな萌芽」を、容赦なしに摘まれてしまうデメリットも持ち合わせていますよね。
お悩み② 別の仕事にも興味が・・・・・・
今の仕事は好きですが、別の仕事にも興味があり、年齢的にそろそろ決めなければなりません。勝算はないけどやってみたいことをやるか、今の仕事を突き詰めるか悩んでいます。(20代・女性)
原宿 おお、これもすごい、王道っぽい質問。
ヨシタケ この手の王道っぽい質問に対して、「今まで通りのことを絶対突き詰めるべきです」って答えって、しないんですよね。
原宿 そうですね。
ヨシタケ 「分かりました。私、チャレンジしません」って、すっきりするはずがない(笑)。
原宿 本当だ(笑)。
ヨシタケ これはもう「新しい仕事に挑戦するべきだよ」っていう。「背中を押してください!」っていうやつです。
原宿 ですよね、そうだわ!
ヨシタケ だから、恋愛相談みたいなもので、「答えは出ているだろ」。「そうだよなー!」って、自分で納得する日が来るかどうかってだけの話です。僕も会社員を辞めるまで「どうしようかな」と悩んだ時期があるんですけど、たとえば「床屋さんに行かなきゃ」ってずっと悩んで、ある日突然「もう今日絶対行かなきゃ!」と思う瞬間があるじゃないですか。
原宿 ありますね。
ヨシタケ どこかで自分の中でスイッチが入る瞬間があるんです。迷っているうちは、無理にやっても、どっちにも髪の毛を引っ張られる形になってしまう。そのうち「あっ、これはもう辞めなきゃ!」って、その日のうちに辞表を出すみたいな、「パーン!」と来る日があるような気がして。
原宿 その瞬間が起こるんですね。
ヨシタケ 僕の場合はあったんですよ。「あ、もう今日だ!」っていう。そういう動物的な勘みたいなものって、意外と皆さん持っているはず。それが来ればしめたもの、というか。……そういう瞬間ってありません?
原宿 そういう直感めいたものが、いつか必ず来るのか……。
ヨシタケ 僕の場合、相当追い詰められていたっていうのもあるんですけど(笑)。それぐらいでないと、踏ん切りがつかないテーマではありますよね。
原宿 たしかにそうかもしれません。ただ、そんな極端に「どっちか」でなくて、「小さく関わり続ける」っていうこともできるんじゃないかな、みたいな気もします。今なんて特に、スモールなことをするには、これ以上ないぐらい良い時代なんで。「やりたい」って思ったら、本当にちょっとだけ、そこに行ってみようかな、とか。たとえば手芸がやりたいなら、手芸の本を買ってつくってみようかな、発表してみようかな、みたいなことがやりやすい。小さくちょっとやってみて。
ヨシタケ バスケットボールのように、軸足さえ動かなければ、片足動く分には良いじゃないですか。意外と片足だけでも結構大きな範囲で動けるので、できちゃいますよね。
お悩み③ レールから外れるのが怖い
同じ仕事を長年続けています。ときどき「ここまで来たら絶対に降りられない、ゴールまで進むしかない」と強迫観念にかられてしまいます。今さらそのレールから外れるのも怖いです。(40代・女性)
ヨシタケ これは年齢によってずいぶん変わってくる質問。同じ悩みを20代が考えるのとは違うと思うんですけど、私は相談者にとても共感する部分があります。「これはこれで悪くないしなぁ」って。「どうしようかな」って思った時、僕のやり方としては、「ま、新しい仕事は来世かな」って(笑)。
原宿 あははは(笑)。ちょっと宗教めいた感じ。
ヨシタケ 「今生は、このままでもいいかな」って。「次、生まれ変わったら何しようかな」みたいな。
原宿 もう、人生の2回目がある前提なのですね。
ヨシタケ 「2回目ある前提」は、よく僕はやりますね。
原宿 「ま、いっか、来世で」。
ヨシタケ そうそう、それはまた来世で。「今回はちょっと元気ないんで、来世に任せてください」っていう。「来世、めっちゃやるんで!」みたいな(笑)。たぶん、前世でもやってきたんですよね、そういうこと。生まれ変わって来世でそれをやるんだったら、ちょっと予行練習で、今のうちにちょっとだけやったほうがいいかな、みたいな。あくまでも「本社から出向としてやる」みたいな。「人生は一度きりじゃない」って思うほうがラクって思いますね。
原宿 俺は「ゆるっと」っていう、「緩める」みたいな感覚がポイントかなと思うんです。今までと同じお仕事を続けていらっしゃって、「これでいいのかな、よかったのかな?」って気持ちもありつつも、ご自分のたどってきた道のりが、どこか誇らしい。「船」みたいな想像をしていて。長い航海を見てきた1隻の船みたいな感覚。で、海のことも知り尽くしたベテランの船員さんで、船も長い航海の間で、傷ついたり、古びたり、色が変わってきたり、フジツボがめっちゃついているな、とか(笑)。いろんな変化が経験を重ねる上であったと思うんです。そんなものに対して「すげえ、かっこいいかも」みたいな感覚もどこかにあるとも思うんです。時代を経てきた船だからこその黒光り。かっこいい。
ヨシタケ 続けてこられたということは、適性は間違いなくあった。だからこそ、新しい船に目移りする。「あんなちっちゃい船だったら小回りきくだろうな」「あんな豪華な船なら良いだろうな」。日によって変わるんですよね。「これはこれでかっこいい」なんて思う日もあれば、ボロくなってきたところばっかりにつく日がある。その日の気分しかないんですけど。「また来世!」。リセットされますからね。何でもチャレンジしていただける。
原宿 なるほど。「来世があります!」。
お悩み④ 忙しいのに喋りかけてくる上司、どうする?
すごく忙しいのに、暇な上司がずっと喋りかけてきて、仕事が進みません。「忙しいので話しかけないでください」と言ってもです。どうしたら良いですか。仲が悪いわけではありません。(30代・女性)
原宿 なんかすごく微笑ましいですね。
ヨシタケ これはもうアレじゃないですか。リモート会議するときに付けるヘッドフォンをつけて、ずっと独り言をマイクに向かって呟けば良いと思います。
原宿 なんか頭とか耳とかに付けておけば良いんですね。「今、これだから」ってヘッドフォンを指さして、オンライン会議をしているようにする。
ヨシタケ あとは、神様の像をずっと拝むみたいな。「今、お祈り中だから」。
原宿 お祈りで遠ざけて(笑)。
ヨシタケ 話しかけちゃダメ(笑)。儀式の準備を始めて。
原宿 「自分の聖域をちゃんと守りましょう」みたいな。
ヨシタケ 「バカにしちゃダメですよ」っていう真剣さの雰囲気を出せば良い。
原宿 良いですね、しかし、何でそんないっぱい話せるんだろう、その上司の人。何の話をそんなにしたいのか聞いてみたい。気になりますよね。朝に「今日、この話したいんだよね」って箇条書きのメモを上司の人から全部もらって、「これは×、これは×」みたいな感じで返す。
ヨシタケ 話しかけていいのはこの2つだけ(笑)。申告制はたしかに良いですね。
原宿 かわいらしい。
ヨシタケ 「お給料の範囲でできる話はこれだけ。人事部、経理部を通して3つということになりました」(笑)。
原宿 どんどん話が面白くなっていくかもしれないですね、その上司の人。制限があるから。「一番面白い話をしなきゃ!」。どんどん話芸が上達していく(笑)。「逆にもっと聞いてみたい」に変わるかも。制限を設けることによって、上司の表現も伸びるって考えれば……(笑)。
ヨシタケ 伸ばすべきなのか?(笑)
お悩み⑤ 「老害」と言われる年齢に・・・・・・
気がつけば「老害」と言われる年齢に。そのまま行くと失敗しそうな人にアドバイスする方が良いのか、構わない方が良いのか。ま、私のアドバイスが有効かどうかも分かりませんが。(50代・女性)
原宿 すねちゃっている。どうしちゃったんですか。自己完結しているけど、「老害」に差しかかる年齢……。
ヨシタケ 難しいですね。「自分はもう『老害』側だから」って、最初に言っておけばあとは何を言っても良いみたいな空気もある。「ここからの発言は老害だから気にしないでね!」って。そこから30分続いたりするじゃないですか。
原宿 たしかに(笑)。
ヨシタケ 「最初の一言で許しを得たと思うなよ」って思いますけれども、難しいことですね。なんかその点、相談者のように「控えめさ」があれば、「あなたは大丈夫よ」って気がしますけどね。
原宿 「まだ必要とされたい」「力になりたい」っていう気持ちがあるのかな。本当の「老害」は、ただただ言うだけ。
ヨシタケ ゾンビになる手前みたいな感じ。相談者も、あっち側に既に、かまれてはいるんです(笑)。「今のうちに、何とかしてくれ」っていう。僕、今、52歳ですけど、これぐらいの年になると、やっぱり面と向かって叱ってくれる人っていなくなるんですよ。
原宿 ああ、なるほど……。
ヨシタケ 面と向かって叱ってくれる人もいなくなる。もし、いたとしても、それを素直に聞く自分もいないんですよね。
原宿 誰もいなくなった。アガサ・クリスティ状態。
ヨシタケ 若い頃は叱られると、しゅんってなったりもするけど、この年齢で怒られると、逆にイラっとしちゃう。全然、素直に聞けていない。「なるほど、こうやって人は年を取るんだな」。叱る人がいなくなるっていうのは、よく聞くけど、叱られる自分もいなくなる。その恐怖もゾッとしました。
原宿 「原宿さんがそう言うんだったら」みたいな雰囲気になることがあって、なんか重みが出ちゃう。自分としては普通に「さらっと流してよ」って思ったことも、「ああ、そうですか……」みたいに重く取られて、「いやいや!」みたいな(笑)。そんなに考えなくていいのに。自分の感覚以上に、周りが自分のことを重たく捉えているっていうのは、ある気がしますね。
ヨシタケ それ、難しいですよね。「裸の王様」感というか。
原宿 どうしたらいいでしょう。でも、この相談者の方は、「なんとか、世の中の役に立ちたい」という気持ちは、すごく強い方なのかなと思うんですよ。どうにか、良い回転を生めないか、という。
ヨシタケ 人間、年を取ると「いいことを言いたい病」みたいになるんですよ。
原宿 ああ、あるかも。
ヨシタケ 「自分の経験を若い人たちに生かしてもらおう」みたいな。で、「しゃべっちゃおう」みたいな。それはなかなかこう難しいところで、善意で喋っているから、余計にたちが悪い。
原宿 善意の方がウザがられちゃうっていう問題もありますね。
ヨシタケ そう。「若い頃、お前はそういうおじさんになりたくなかったんじゃないのか!」。だけど、本当に年を取るとわからなくなる……。
原宿 AIとずっとしゃべるのはどうですか(笑)。ChatGPTと壁打ちをする。AIはその人にマッチしていく感じがありますから、その人の好敵手として、永遠に壁打ちを続けていく。そんな人も、もしかしたら今後生まれるかもしれないですね。「老害2.0」みたいな、新しい形です。すべて自分とAIの中で完結していく「老害」。
ヨシタケ ちょっとなかなかゾッとする(笑)。
原宿 「これが進化だ」っていう(笑)。でも、そういうのは新しく使えるかもしれません。
ヨシタケ それはたしかに新しさもありますね。
お悩み⑥ 大人だって遊びたい
よく「大人だから」といいますが、大人も遊びたいし、たくさん寝たいです。私はお給料日に年金や税金が引かれていると「ああ大人だな」と思います。お二人が「大人になった」と思った瞬間は?(20代・女性)
ヨシタケ それこそ僕、本当にちっちゃい頃から働くのは嫌でした。「みんなで会社で一緒のことをやるの、僕、向いていないだろうな、イヤだな」ってずっと思っていて。でもやっぱり会社に行ったんですよね。半年間しか続かなかったんですけど。その何日目かで、雨が降っていて、蒲田の立ち食いそば屋さんで、おそばを食べていたんですね。その時、強烈に「あっ、俺、これじゃない!」って思って。雨の日にスーツを着て、ビチョビチョの傘とカバンを足の間に挟んで、そばを食べていた時、ちっちゃい頃に思い描いていた「楽しくなさそうな大人」そのものだったんです。「俺が今、それだ!」っていう。「俺、こういうのじゃなくなかったっけ?」って思ったことがあって。
原宿 すごい! 鮮烈ですね。
ヨシタケ 「こういうのをやりたくなかったんだよね」って思ったことは、すごくその後、会社を辞めるきっかけになった。ビジュアルとして、本当、絵に描いたような大人になった瞬間があって。「コスプレにしてはでき過ぎている」。コスプレだったらまだ面白いんだけど。この、「楽しくなさそうだな、あのおじさん」っていう、ちっちゃい頃に思い描いた「大人」がここにいたんですよ。
原宿 それを体現してしまったんですね、自分で。
ヨシタケ その時に強烈な違和感があって、「あ、これじゃないよな!」ってすごく思った。
原宿 すごい瞬間。絵画にしたいですね、なんか宗教画みたいな(笑)。ぴかって光が射す。
ヨシタケ 良くない意味で大人を感じちゃった。絵本を描いていて、「子どもの気持ちを忘れない秘訣は何ですか?」みたいな質問を受けるんですけど、逆に「どうすれば大人の気持ちになれるんですか」って聞きたくなる。いまだに「大人って偉いなあ」って普通に思うんですよ。年齢的には自分だって大人なのに。「真面目だな、電車に乗って、みんなに迷惑かけずに」みたいな。いまだにその価値の基準が子どものまま。「子どもの気持ちを忘れていない」のではなくて、「アップデートできていない」だけなんですね。自分だけ止まっていたんだ、ということに気づいた時は、驚きました。
原宿 俺、力士が25歳って聞くとびっくりします(笑)。いまだに俺、力士のことは年上のような感じがあります。
ヨシタケ 僕は40歳で絵本作家になって、10何年かしかやってないんだけれども、年齢的にはもう、現場では最年長になることも多いんです。「先輩だ」と思っていた作家さんが、みんな年下なんですよ、へんな感じがすごくしますね。あと、年齢差。ちっちゃい頃の10歳上ってもう全然違うけど、50歳だと、「10歳しか変わらないんだ」みたいな。
原宿 変わらないという感じ、たしかにありますよね。どんどん縮まってくる。「年齢って別に意味ないかな」と思い始めるのも、大人かもしれないですね。「今、俺、いくつだっけ?」って、ちょっとたまに思う時があります。自分の年齢が今、よくわかんなくなってくる。
ヨシタケ 自分の年齢に興味なくなったら大人。
原宿 それはあるかもしれないです。
ヨシタケ 誕生日が全然楽しくなくなる。
原宿 「ああ、先週だった」みたいに、祝いたくなくなる。っていうか、忘れますね。普通に。
ヨシタケ 絵本作家として、昔、ちょっと考えたのは、「月がついてこなくなったら、大人なんじゃないか」と。
原宿 えっ。月?
ヨシタケ ちっちゃい頃って、お母さんの自転車の後ろに乗って夕方、家に帰ってきて、月がついてくるじゃないですか、一緒に。
原宿 ああ、はいはいはい。
ヨシタケ ある時、「あれは遠くにあるから動かないんであって、ついてきているわけじゃない」って知った瞬間から、月が動かなくなるんです。
原宿 おおーー。すごい!
ヨシタケ 「ああ、遠くにあるからな」って。その時に、1個、世界がつまんなくなった。大人になったって感じがして。月が一緒に家まで来てくれるうちは、大人じゃないんじゃないかなっていう。「なんか絵本っぽいな」って自分で思ったことがあります。
原宿 たしかに言われてみると……。そういう、「わかってしまって変わる瞬間」みたいなのがある。
ヨシタケ 世の中の本当のことがわかって、つまんなくなる。1回そうなっちゃうと、元に戻れない。一方通行。ちっちゃい子を見ていると、「まだ月がついてきてくれているね、いいね」。
原宿 「月がついてきていると思える年齢」。ある瞬間、ついてこなくなる。これ、まだ他にもありそうですね。
お悩み⑦ 大人になると本音で相談しづらい
大人になると、本音で相談しづらいのは何でなんでしょうかね?(40代・男性)
ヨシタケ 僕、大人になってよかったなって思うことがあって。「大人って嘘ついていいんだ」。
原宿 えっ、そうですか。
ヨシタケ ちっちゃい頃って「嘘をついてはいけません」ってずっと言われ続けますけど、大人になると、嘘も必要になってくるじゃないですか。
原宿 まあ、たしかに。社交辞令ですよね。
ヨシタケ 嘘をたくさんつくから、世の中はスムーズに回っている。本当のことを言ったらもう殺し合いじゃないですか(笑)。だから、大人はちゃんとみんな嘘をつき合って、どうにかこうにかウヤムヤにし続けて、毎日回っている。
原宿 曖昧に。
ヨシタケ 「曖昧にさせていい」っていうのがすごく、僕はしっくりきた。子どもの世界って、面と向かって悪口言ったり、ひどいこと言ったり、やったりするじゃないですか。大人の世界ではフィルターを通すから、「大人って優しいな」って。逆に自分を守るために人に優しくするんだなというか。建前と本音を使い分けている大人ってなんか、自分にとってはうれしかったんですよね。
原宿 本音を言えないんだけど、代わりに、その曖昧な優しさを身につけているっていうような。
ヨシタケ 世の中には、「相談したい派」と、「相談をしない派」の2チームに分かれる気がしていて、僕、「相談しないチーム」に属しているんです。だから、他人に相談できないって悩みが、じつはあんまりピンときてなくて。
原宿 このイベントを根底から覆しますね(笑)。
ヨシタケ 身もフタもない(笑)。原宿さんはどっち派ですか?
原宿 俺も、そこまで相談しないタイプ。というか、なんか、「矛盾を抱えるのが好き」っていうのがあるんです。世の中って矛盾しているものだから、矛盾してこそ現実、というか、「生きている」っていう感覚があるなと思っているんで。相談して、それをどうにかしたいっていうよりは、「矛盾している。これが現実だ」みたいな。「それが最高!」みたいな感覚になっちゃうんですよね。
ヨシタケ 相談を聞くのは楽しい、ということにもなりますね。
原宿 楽しいですね。
ヨシタケ それはわかります。僕も、他人の相談を聞くのが嫌いなわけじゃなくて、「いや、そういうこともあるよなあ~」って。いっぽうで「自分が相談したいか」って言えば、あんまりしない。
原宿 本音をあんまり言わないのですか。
ヨシタケ 本音を言うのに慣れてないから余計に。怒り慣れてない人って、いったんキレたら面倒くさかったりするじゃないですか。気持ちの直し方がわからない。ふだん相談をしない人って、相談するのがめっちゃ下手なんですよ。
原宿 なるほどーー。
ヨシタケ 相談したい人は相談を聞くのが好きチームの人同士でやった方がいい。
原宿 ヨシタケさんはそこには入っていないのですね。俺が最近思ったのは、大人になると、あんまり他人の未熟な部分が見えなくなる。完璧に仕上がったパーソナリティー同士で会わなきゃいけないんですけど、中学時代からの同級生って、普通に何年も会ってなくて、いきなり会っても、当時の感じで話せる。それってお互い、「どうしようもない時期」みたいなものを共有し合っているから、未熟な時期、つまり失敗とかをめちゃくちゃ知っているから、すぐ本音で話せるのかなって。未熟さ、失敗を、ちゃんと共有し合える関係だって思えたら、わりと本音で話せる気がするんです。
ヨシタケ ああ、それはすごく大事な気がしますね。ちゃんとひっくり返って、お腹を見せ合える勇気がないうちは、お互いに無理な部分はたしかにあるかもしれない。
原宿 「最近失敗した」とか「怒られた」とか。そういうことから話すと、結構すぐ仲良くなれるかもしれないなぁって、最近ちょっと感じていますね。
ヨシタケ それこそ、お母さん、お父さんからの質問で、「子どもから悩みを打ち明けてくれない」みたいな話を聞くことがありますけど、それもまず大人が(心を)開かないと、弱みを見せないと。お子さん側も、弱みを「見せちゃダメ」って思っているから、まず親の方から失敗談を話さないとですね。「お母さん、実はお父さんの他に好きな人がいるんだよ」。
原宿 ええっ!(笑) すごいところから(笑)。
ヨシタケ 僕ね、小学生ぐらいの時に、田舎に肌の合わないおじさんがいたんですけど、あるとき、父親に文句言ったんです。「あのおじさん、嫌いなんだけど」。そうしたら父親が「あのおじさんね、奥さんに逃げられたんだよ」って(笑)。その時になんかすごく嬉しかったのを覚えているんですよ、「大人扱いされた」って。大人にしか言わないことを僕に教えてくれた。子どもって子ども扱いされるのが嫌いだから、大人の話題を振られると嬉しいんですよ。自分も一人前だと思ってもらえて、こっちも一生懸命考えなきゃ。ってことは、「俺の悩みを言っていいんだな」みたいな。こちらの弱みや悩みも、一度こちらからオープンにするって、大事な気はしますね。
原宿 そうかもしれないですね。
ヨシタケ こっちの情報は何もあげないのに、お前のプライベートをよこせって、失礼な話じゃないですか。親子であればなおさら。まず、とっておきの失敗談を披露してから、みたいなね。そこから徐々にやっていくといいかもしれない。
原宿 いいかもしれないですよね。「会社の金を使っちゃったよ……。どうしよう?」(笑)。子どもの方が、「こいつダメだ」と思ってどんどん伸びていく(笑)。
ヨシタケ 絶対伸びると思うんですよ。10年ぐらい経ってから、「お父さん、あの時のことだけどさ、経理にこんなふうに通せばよかったんじゃない?」って(笑)。ずっと考え続けているという。
原宿 失敗をみんなで話し合っていきたいですね。
ヨシタケ 親ってどうしても武勇伝を語りたがるんだけれども、僕はなるべく失敗をたくさん言うようにしています。「こういう時にお父さん、すごく大変だったんだよ。これだけの失敗をしてきたけど、今、あなたの親になっているんだよ。だから、あなたも失敗していいんだよ」って。自分の失敗の数をたくさん教えてこそ、他人に失敗を許可できるような気がする。
原宿 すばらしい。
ヨシタケ 「これだけお父さんはできないことがたくさんあって、いろんな人に迷惑をかけたけど、いま、どうにかなっているんだ」。人間はそうやって足りない部分を補い合って、群れで生活している生き物だから、誰かをほっとさせてあげれば、代わりに助けてもらえるよ、って。「みんな、できないこと、いっぱいあるんだぜ!」。世の中の在り様が共有できれば十分な気がしていて。
原宿 だから仕事での失敗も大事なんですね。
ヨシタケ そうそう。
原宿 仕事選びを間違えた、とかも、いつか誰かに話せるかも。
ヨシタケ 失敗って怖いし、失敗したくないって気持ちは誰もそうなんだけれども、どこまでなら失敗していいのか、何回までならいいのか、みたいに具体的に言ってもらえたら、もうちょっと気がラクだったかもと思います。「頑張れ」「なるべく失敗しないように」ってなると、どんどん不安になっちゃう。僕なんか、絵本作家になったばかりの頃、ラジオ番組の出演時間が「午前11時」なのを、「午後11時」だと勘違いしたことがあったり……(笑)。電話出演で事なきを得ました。
原宿 失敗は俺も多々あります。ワインを開けようとして会社の壁をぶっ壊したり……(笑)。革靴にワインのビンを入れて壁に叩きつけると、コルクが開くっていう動画を見たんで、それを会社でやったら壁がボカンって。「知らないフリしよう」と思って隠していたら、何年か後に、「これ原宿さんでしょ」って、もう完全にバレていたんですよ。その時、みんなで大笑いできたから、「ああ、なんかよかったのかな」って(笑)。こういう仕事をしていてよかった。壁ぐらい壊れてもなんてこともない。この笑い、楽しさに比べたら。
ヨシタケ 苦しみ、挫折は笑い話にして。
原宿 発信していると、そういうこともありますね。
ヨシタケ 捨てるところもなくなる。芸の肥しにできる。でもそれって別に、表現の仕事だけに限らず、人として生きている以上は誰だって、ひどいことが起きた時に、「いいネタを仕込んだ。5年後に笑い話になるぞ」と思えばいい。10年ぐらいかかるもしれないけど、「10年後にこれはネタになるぞ、いいネタ仕入れたぞ」って思いながら暮らしていこう、ってできるはず。
原宿 皆さんもそうだし、この近くを歩いている人たち、一人ひとりにそういう失敗があるっていうのは、なんか俺、「とんでもないことだ」って感じがするんです。一人ひとりに聞きたいですよね、そういう話。
ヨシタケ 絶対、大笑いできる失敗、みんな持っているはず。
原宿 めちゃめちゃある気がする。
ヨシタケ 人生しかオリジナルなものはない、みたいな。創作は全部何かを混ぜたりするけど、その人の人生は世界に1個しかない。
原宿 それって、すごいことですよね。
お悩み⑧ 仕事が毎日同じことの繰り返しです
主婦です。お仕事が毎日同じことの繰り返しです。どうしたら楽しく、変化のあるお仕事にできますか?(50代・女性)
ヨシタケ 逆説的な言い方をすると、毎日が同じ仕事で飽きてしまうって、健康な証拠なんですよね。「余命半年です」と言われた上で仕事をやると、毎日、すべてのことが光り輝いて見えちゃうんですよ。
原宿 かけがえのないものになっていく。たしかに。
ヨシタケ そうなると、ゆとりがなくなってくる。「毎日同じで飽きちゃうな」って思えることは、じつはゆとりのある人生、って言い方もできる。
原宿 でも、社会構造にも関わるお悩みですね。「なぜ主婦は毎日、家で同じ仕事をしなければいけないのか」。ここから、この社会を打倒していこう。もう毎日、同じ仕事じゃないようにしてやるぞ、みたいな野望を持つ。
ヨシタケ はいはいはい。
原宿 これはでも、かなり深淵な問いだなと思います。
ヨシタケ いろいろ頑張ってみれば違うはずだし、そこを面白がれることは不可能ではないんだけれども、それって結構、体力とコストがかかると思うんです。難しいですよね。どんなすごい人だって、飽きるときは飽きるので。
原宿 生活に不安がないだけに、いかんともし難い。
ヨシタケ 昔の人は、「明日、マンモスを捕まえられなかったら、死ぬ」という世界でした。それを思えば恵まれているといえば恵まれているけれど、その「緩い地獄」だというのもすごくわかる。ぬるいけど地獄だし、地獄だけどぬるい。その「ぐるぐる」ですよね。
原宿 家事をしながらできる何か楽しいことを探すという意味では、ポッドキャストなどはどうかなと。自分に肌が合うポッドキャストを聴いて、いろんなものを知ってみるっていうところから始めてもいいかもしれない。 じつは今度、配信を始めるんです。
※ポッドキャスト番組「原宿の今じゃない企画室」を5月21日から配信開始。メインビジュアルはヨシタケさんが担当。
ヨシタケ お悩み相談の最後が宣伝になりましたね。これこそ、まさに仕事!(笑)
原宿 ありがとうございます(笑)。オモコロは番組がいっぱいあるんでぜひ。ちょっと毎日飽きちゃったっていう時は、何か聴いてみては。今回は本当に一気呵成に、千本ノックのようなお悩みに答えました……答えられたのでしょうか?(笑) でも、ずっといけそう。送られてきたお悩みが1000本あるんで、全部、答えていくイベントもあっていいかもしれないですね。「1000本行くまで帰れません」って番組もありかな(笑)。
ヨシタケ 今日、原宿さんと初めてお会いし、何を言ってもちゃんと返してくれる安心感で、すっかりノープランで挑んだ甲斐がありました。じつは息子がオモコロの大ファンなんです(笑)。僕自身、とても楽しかったです。
