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師田史子さん「日々賭けをする人々」インタビュー 予想裏切る現実の深み

師田史子さん

 賭け事は人生を彩る。賭博者は、予想の裏切りに驚き、逆説的に現実の奥深さをかみしめる。

 賭博=悪という決めつけからは決して得られない世界のある種の実相を、フィリピン・ミンダナオ島でのフィールドワークから導いた。

 フィリピンは、国家的に賭け事が盛んだ。とくに闘鶏と、日本のナンバーズ3に似た数字くじ。合法/違法と時の政権によって翻弄(ほんろう)されながらも、日常生活に入り込んでいる。

 富裕層から大衆まで、賭けを通して不確実な未来や運をコントロールしようと欲望する人々を描いた。賭博の歴史、複雑な胴元制度の解説、確率論も盛り込み、くじの売人や闘鶏のブリーダーなど周辺で血道を上げる者たちの生態も生々しい。

 研究対象に賭け事を選んだのは実体験から。

 大学のサッカーサークルの仲間たちと、競馬やパチンコ、「せっさん」と呼ばれる指遊びで食べ物をおごる賭けにはまった。

 紛争研究をしようと留学したフィリピンで、居候先の家族や友人らが日常的に賭け事をしていた。米を買えずとも賭けはする。ファイトや数字を見つめる真剣なまなざしには、今しか映っていなかった。「リスクや自己責任という考えは忘れ去られ、この瞬間の熱狂を他者と共有していました」

 大学院進学後、研究テーマを転換した。

 専攻する文化人類学の古典的なテーマに、宗教や呪術がある。「わけのわからない未来をなんとかしようとするのは、賭け事も共通。古くて新しい問題系」と話す。

 賭け事は愚者の戯れと、目を背けることはできる。道徳論で批判することもできる。依存問題もはらむ。一方でしかし、それは私たちの隣人たちによる、紛れもなく「人間くさい営み」でもある。

 「勝った負けたの理由に積極的な意味を見いだし、次の賭けへと進むという途切れない物語をつくる」賭博者。研究者として愛好者として、そうしたありようを受け止めようとしている。(文・写真 木村尚貴)=朝日新聞2025年5月31日掲載