1. HOME
  2. インタビュー
  3. えほん新定番
  4. かしわらあきおさんの絵本「しましまぐるぐる」 絵本のイロハ、知らなかったからこそたどり着いた“自由さ”

かしわらあきおさんの絵本「しましまぐるぐる」 絵本のイロハ、知らなかったからこそたどり着いた“自由さ”

『しましまぐるぐる』(Gakken)より

得意を生かした、デザインありきの絵本作り

――赤、青、緑、白、黒……鮮やかな配色と、しましま、ぐるぐる模様を基調にした絵が目を引く、かしわらあきおさんの絵本『しましまぐるぐる』(Gakken)。0歳の赤ちゃんから楽しめる作品として、喜ばれている。作品誕生のきっかけとなったのは、1枚のデザイン画だった。

 当時、デザイン会社で働きながら、自分のブログに毎日1点、オリジナルのキャラクターやイラストを描いてアップしていたんです。その中の、ある作品を見た編集者さんから連絡をいただいて、「この絵で絵本を作りませんか?」と声をかけていただいたのがきっかけでした。コーヒーをイメージした茶色い画面に、コーヒーフレッシュのぐるぐるした模様があって、その真ん中にサルの顔があるイラストです。その後、『しましまぐるぐる』の象徴的な画面の元になったのですが、そのときは、おふざけで描いたようなキャラクターだったので、「え!? これで絵本?」って、かなり驚きました。編集者さんは、0歳の赤ちゃんが楽しめる絵本を作りたいと考えていて、赤ちゃんが好きなハッキリとした「配色」、目と口がある「顔」があるものを、と構想していたときに、僕の絵がぴったり合ったみたいです。これがどうやって絵本になるのか全く想像できなかったんですけど、編集者さんにお会いしてお話をするうちに、だんだん盛り上がって、進めていくことになりました。

『しましまぐるぐる』誕生のきっかけとなったイラスト

 ブログにアップしていなかったら、こういうご縁もなかったし、『しましまぐるぐる』も出ていなかったと思うので、誰かに見てもらう、発信していくことはすごく大事だなと感じたことを覚えています。自分が持っている部品と、どこかにそれと合う部品を持っている人がいるのに、それがなかなか見つからないこともあると思います。こっちにこんな部品があるってことを発信して、PRしていく努力も大事だなと思いました。

――絵本の絵や挿絵を担当したことはあったものの、1冊全て自分で手がけるのは本作が初めて。自分に何ができるのか悩んだという。

 絵本のイロハもわからないし、セオリーがあるのかどうかもわからない。絵本に答えはないと思うんですけど、ない答えを探そうとしたり、書店や図書館で絵本を何冊も読んでみたり、いろいろやってみたんですけど、なかなかうまくいかなくて。あるとき、絵本ではないものをデザインしていたときに、魅力ある表現をして、それを楽しんでもらうという意味では、絵本でもデザインでも同じなのかな、と気づいたんです。そうしたら、堅苦しく考えずに思いつくまま自由にやってみようと、頭の切り替えができました。それからは、絵本を作るというよりも、気持ちのいいデザイン、楽しくなるデザイン、リズミカルなデザインというように、紙面をデザインしていくことにしました。

 また、絵本というと動物などのキャラクターがいてお話を進めていく内容のものが多いですが、特定のキャラクターではなく、ビジュアルで見せることに特化した絵本があっても面白いんじゃないかと思って。それなら、赤ちゃんが好む「コントラストが強い配色」「顔がついたもの」というお題も、うまく表現できそうだなと思いました。例えば、『しましまぐるぐる』にはカエルがいる雨のページがありますが、普通はカエルが伏線で前のページに出てきたり、作品全体を通して出てきたりと、ストーリーがあるものが多いのですが、そうではなく象徴的なシーンを切り取ったデザイン的な見え方の絵本にしてみたいなと。自分が得意なもの、やってきたこと、できることといったらデザインかなと思ったので、そっちにシフトしました。そうしたことで、自分でも一番気に入っている、この作品の持ち味である「自由さ」が生まれたのかなと思っています。

『しましまぐるぐる』(Gakken)より

読む人も自由に楽しめる絵本

――気に入っているのは「タオル」のページ。絵本らしいデザインのページになったという。

 ほかのページは、デザイン寄りなんですけど、タオルのページは、絵本っぽくもあり、デザインっぽくもあり、いい塩梅にできたかなと思っていて、とくに気に入っています。

『しましまぐるぐる』(Gakken)より

 赤ちゃんの絵本、しかも0歳向けなので、削ぎ落とすところは全部削ぎ落として、文も絵も余分なものは全部カットするような作業をしました。編集者さんと一緒に、ずいぶん整理しましたね。他の絵本作家さんとは全く違う作り方かもしれませんが、最初に絵を全部仕上げて、その後、客観的に絵を見て、どういうお話が思いつくかなと考えました。あまり難しく考えずに、感じたままを文字にしたという感じです。お話を先に考えると、決まった絵を描くだけという感じがして、楽しくなさそうだし、こういうものと決めない方が自由にのびのび描けますので。結果的に、一冊を通してつながったお話ではないので、どこから絵本を開いてもいいし、好きなところを何回見てもいい。読む人が好きに楽しめる作りになってよかったなと思います。手探りで始めた分、得たものもかなり大きくて、その後の絵本作りのベースになりました。

――『しましまぐるぐる』は、出版直後から人気に。本作をはじめとする「いっしょにあそぼ」シリーズは、累計370万部を超える赤ちゃん絵本のベストセラーシリーズになった。

 絵本の作り方を全然わかってなかった人が、自由に作った絵本で、そこまで反応があったというのは、本当に驚きました。シリーズ本も出させていただいたり、グッズもいっぱい出してもらったり、「しまぐるランド」という遊び場までできて、私の作品ではあるんですけど、すごいなぁって客観視しています(笑)。子どもがみなさんに助けてもらいながら、どんどん冒険に行っているという感じですね。読者の方から「寝かしつけが大変だったけど『しましまぐるぐる』で、すごく助かっています」「『しましまぐるぐる』で発語や笑顔が増えて、とても感謝しています」など、そういった声をいただて、すごく嬉しいですね。

『しましまぐるぐる』(Gakken)より

木工職人からデザイナーへ

――デザイナーになる前は、木工所で机を作っていた、かしわらさん。机をデザインする人になりたいと思ったのが転機だったという。

 机を作る1工程、天板だけを作ることをしていました。絵は好きで、デザインも興味はあったんですけど、仕事にしようと思ってなかったんです。半年くらい働いて、ふと、作るより、これをデザインする仕事がしたいと思って、木工所は一年で辞めて神戸デザイナー学院へ入りました。デザインで人を楽しませたり、助けたり、喜ばせたり、そういうことがしたいなと思って、デザイン業界にいったら、そういう仕事があるのかなとぼんやりと考えていました。結局、机をデザインする道には進まなかったのですが。

 入社したデザイン事務所「京田クリエーション」では、商品企画のチームに入って、有名キャラクターのステーショナリーグッズやキャラクター開発、変わったところでは下着や浮き輪のデザイン、展示会のブースやイベント会場のデザインもしていました。『しましまぐるぐる』の制作はデザイン事務所に在籍しながら取り組んでいて、オーナーの(故)京田信太良さんが墨絵作家でもあり、そういう創作活動に理解を示してくれていたので、絵本を作ることもできたんだと思います。

――実は、『しましまぐるぐる』と同時進行で、『ほんとのおおきさ動物園』(Gakken)の絵とデザインも手がけていたという。

 『ほんとのおおきさ動物園』の担当者さんが、学研教育出版(現Gakken)に入る前に、一緒にお仕事をしたことがあって、声をかけていただきました。動物を原寸大でリアルに見る図鑑の制作と、0歳の赤ちゃんがしっかりと見えるように大胆にデザインするという作業を同時進行でしていたので、ギャップがすごかったです(笑)。

『ほんとのおおきさ動物園』のライターの高岡昌江さんが、会社にチェックしにきてくれたときに、制作時期が重なっていた『しましまぐるぐる』も見てくれました。そしたら、ハムスターのページを見て、「ハムスターの尻尾は短いよ」って教えてくれたんです。僕の中では、ハムスターはネズミの仲間だから尻尾は長いというイメージだったんですよね。動物のことをよく知っているライターさんのおかげで、直せてよかったです(笑)。

『しましまぐるぐる』(Gakken)より

――これからも、読んだ人が楽しい気持ちになったり、前を向いてもらえたりするような絵本を作っていきたいという、かしわらさん。

 なるだけポジティブなメッセージを盛り盛りに、体温のある画面作りやリズム感を心がけて作っています。今後は、自分自身も思いつかないような「すごい絵本」が作りたいですね。みんなに喜んでもらったり楽しんでもらったり、業界に風穴を開けられるような、斬新なアイデアで絵本が作れたらいいなと思っています。最初に『しましまぐるぐる』を作ったときのように、新しいものを採り入れることも必要かもしれませんね。